京阪グループは今年開業110周年を迎えました。これを記念してフォーラムを11月1日(日)に開催。日本資本主義の父・渋沢栄一翁の精神と、1970年に続き2025年に万博が開かれる大阪・関西の未来について議論を交わしました。当日の模様を採録でご紹介しましょう。
- 令和2年11月1日(日)14時〜16時30分
- 堂島リバーフォーラム
- 14:00 開会・主催者挨拶
- 京阪ホールディングス株式会社 代表取締役会長CEO 加藤 好文
- 14:10~14:40
基調講演Ⅰ「渋沢栄一と1867年パリ万博」 - 渋沢史料館館長 井上 潤氏
- 14:40~15:10
基調講演Ⅱ「万国博覧会と大阪・関西」 - 大阪府立大学特別教授 橋爪 紳也氏
- 15:10~15:20 休憩
- 15:20~16:30 パネルディスカッション
「渋沢栄一翁と万博、関西の未来」
~今こそ、大阪・関西から次代を拓く~ - 【登壇者】
渋沢史料館館長 井上 潤氏
大阪府立大学特別教授 橋爪 紳也氏
有斐斎弘道館館長 濱崎 加奈子氏
京阪ホールディングス代表取締役会長CEO 加藤 好文
コーディネーター 朝日新聞社東京本社経済部長 多賀谷 克彦氏
■挨拶:安全とチャレンジでさらに飛躍
京阪グループは1910(明治43)年4月に大阪と京都を結ぶ鉄道の営業を開始し、今年で110周年を迎えました。京阪電気鉄道株式会社は、来年の大河ドラマにも取り上げられる「日本資本主義の父」渋沢栄一翁を創立委員長として設立。鉄道敷設の申請はなかなか本免許に至らず、3度目の挑戦で成し遂げたのです。コロナ禍の今こそ、渋沢翁の決して「諦めない心」を思い起こす時です。社会の変化に機敏に対応しながら「安全とチャレンジ」を経営方針とし、お客さまから選ばれ続ける京阪グループを築いてまいります。
■基調講演 Ⅰ:「渋沢栄一と1867年パリ万博」
より良い社会を夢見て奔走
徳川幕府最後の将軍になる一橋慶喜に仕えた渋沢栄一は、パリ万博使節団の庶務会計係として1867(慶応3)年に渡欧します。フランスに行く途中にスエズ運河の大規模な開削工事が会社で行われていることに驚き、スエズからアレキサンドリアまでの約600キロは鉄道で移動。輸送事業の必要性を痛感します。パリでは株式取引所や銀行、学校などを訪問。日本の錦絵など名品も出品されたパリ万博では、優秀なものが評価され切磋琢磨し、文化が競い合うことで文明も進化すると感じたようです。
2年足らずの渡欧体験は、日本の近代化・産業化に大きな役割を果たします。その一つが資本を集め事業を成し遂げる合本法の実践です。帰国後数カ月で日本最初の株式会社とも言われる「商法会所」を設立。明治政府に招かれ民部、大蔵省の一員として関わった後、生涯で約500社の育成に関与。より良い社会にするためには産業振興を支える福祉・教育・医療も必要と考え、約600もの社会公共事業に尽力しました。渋沢は社会の利益を第一に考える公益の追求者だったのです。
■基調講演 Ⅱ:「万国博覧会と大阪・関西」
未来社会を共創する場に
2025(令和7)年大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。一人ひとりの命が輝く生き方と、それを可能にする社会経済の未来像を共創することを掲げています。私は誘致案の会場計画に携わり、一つとして同じ形がない敷地に大小のパビリオンを置き、迷路状の通路を考えました。すべての場所が中心となり、異なるかたちが集まるのが特徴です。
一般的に万博では高速道路などのハードレガシーに加え、人々の思いを集めたテーマ性のあるソフトレガシーが大事といわれます。1970(昭和45)年の大阪万博でいえば太陽の塔です。本来は会期終了後に解体予定でしたが、シンボルを残そうという声が集まり、50年が経過して登録文化財になりました。
では2025年大阪・関西万博のレガシーは何か。私は博覧会で仕事をしたり才能を開花させた人たちが最大のレガシーになると考えます。彼らが継続して活躍することが、関西の活力になります。渋沢栄一がパリ万博に赴いた後に様々な企業を興したように、この博覧会で得た知識や思いを元に、様々な企業が大阪・関西に生まれれば博覧会は成功したといえると思います。
■パネルディスカッション:「渋沢栄一翁と万博、関西の未来」
~今こそ、大阪・関西から次代を拓く~
混迷の時代に ぶれない軸と指針
【多賀谷】
今の時代になぜ渋沢栄一は再評価されているのでしょうか。
【井上】
渋沢が取り上げられるようになったのは、バブル崩壊後に企業倫理が問われるようになってからです。それ以降、課題が発生する度に「渋沢の考えを見直すべき」といわれました。連続テレビ小説「あさが来た」で一般にも広く紹介され、渋沢の資料や著書に目が向き世の中に浸透していったと思います。
【橋爪】
今は少子高齢化で先が見えない時代です。より良い社会、公益を目指して挑戦する渋沢翁の姿勢が求められていると感じます。
【濱崎】
私たちが運営する有斐斎弘道館は、日本文化による人間育成の場として再興した学舎で、江戸中期の儒者・皆川淇園の顕彰も目的にしています。先の講演では渋沢翁が人をよく観察し出来事の意義を見抜いているところに感動。そうした点が多くの人にとって魅力的に感じられると思います。
【加藤】
「論語」を拠り所にし、利益は正しい道を歩んだ後の結果として付いてくる、と言い切る渋沢翁のぶれない軸が、混迷を極める社会で大切だと思われているからでしょう。
関西の魅力を発信し 2025年の万博へ
2025年の関西での2度目の万博に、何を期待しますか。
【橋爪】
21世紀の博覧会は自国の技術や産業を紹介するだけではありません。今回はSDGsの達成に貢献する万博を目指します。問題解決に向けて、共に創造しようという試みが重要です。
【濱崎】
迷うような会場配置と知りうれしくなりました。私たちの日本文化の普及活動も「分かりにくい」といわれることがありますが、さまよって探す楽しみや深みがあってこそ日本文化だと思うからです。
【加藤】
万博は未来を予測し、実現すべきものを提示するところでもあります。京阪グループとしては夢洲での万博開催やIR(統合型リゾート)の誘致を見据え、中之島線の延伸も検討していきたいと考えています。
【多賀谷】
関西の魅力とは。それをどう生かすべきでしょう。
【加藤】
渋沢翁は大いなる〝お節介〟を発揮して会社や社会事業をつくったと思います。この、言わば優しい〝お節介〟は関西人の最大の魅力。〝お節介〟を披露することが、関西の魅力を発信することになるのではないでしょうか。
【井上】
私は大阪の出身です。大阪人らしい厚かましさや親切心をもっと出して、関西の文化を伝えてもらいたいです。
【濱崎】
歴史とともに多様な人、空間がある関西の魅力を私たちが自覚し認め合うことが、次の時代をつくることになると思います。
【橋爪】
違うものと出会うことから新しいビジネス、文化は生まれます。大阪人は色々なものを混ぜ合わせるのが得意です。次世代に向け新しいアイデアを創造しましょう。
京阪・文化フォーラムは、今後も様々なテーマで開催いたします。みなさまのご参加をお待ちしております。
- 京阪グループ開業110周年記念事業「記念フォーラム」
- 第44回 京阪沿線の城と歴史発見
- 第43回 明治維新と東海道五十七次
- 第42回 花と建築 建築と華
- 第41回 今、なぜ明治維新なのか。〜西郷どんの実像〜
- 第40回 東海道五十七次と大津宿・伏見宿・淀宿・枚方宿・守口宿
- 第39回 大政奉還、鳥羽伏見の戦い
- 真田幸村の足跡を辿る —九度山から大坂の陣まで—
- 第38回 国宝 石清水八幡宮本社
- 真田丸の戦略と真田信繁(幸村)の実像に迫る!
- 第37回 馬と人間の歴史
- 第36回 光秀と秀吉の天下分け目の山崎合戦
- 第35回 中世の京都町衆と祇園祭
- 第34回 彩られた京都の古社寺
- 第33回 水辺の歴史 大川沿いにある大坂の陣戦場跡
- 第32回 神に祈った武将たち -石清水八幡宮と源平・足利・織田・豊臣・徳川-
- 第31回 天下統一の夢 -信長と光秀の光と影-
- 第30回 信仰とお笑いの狭間に落語
- 第29回 平清盛と平家物語
- 第28回 葵祭
- 第27回 酒は百薬の長 落語は百楽の長
- 第26回 今に生きる熊野詣